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腱板損傷からスポーツ復帰へ|リハビリの時期・段階と復帰基準

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湿布と安静だけでは見えてこない、肩の回復プロセス

「腱板損傷」と言われ、湿布を貼って休んでいるのにサーブが打てない。このまま競技から離れることになるのでは、と焦る方は少なくありません。肩の腱板は、負荷のかけ方と時期の見極めによって取り組む内容が大きく変わる部位です。この記事では、急性期・回復期・機能改善期という3段階の流れと期間の目安、そして復帰を検討する際に確認したい客観的な指標を整形外科の視点から整理します。鍵になるのは「休む」から「段階に応じて動かす」への発想の切り替えです。

この記事の要点まとめ

  • 腱板損傷のリハビリは急性期・回復期・機能改善期の3段階で進め、期間は状態により異なる
  • 可動域や筋力、痛みなど複数の指標をもとに段階的に競技復帰を検討することが大切
  • 体外衝撃波や再生医療等はリハビリと組み合わせる選択肢のひとつとして考えられる

腱板損傷におけるスポーツ復帰リハビリの基本方針とよくある誤解

腱は筋肉と骨をつなぐ組織で、肩では棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つが板状に集まり「腱板」を形づくっています。上腕骨頭を関節窩へ引き寄せ、腕を挙げるときの支点をつくる、いわば縁の下の力持ちです。テニスのサーブや投球のように腕を頭上へ振る動作が繰り返されると、腱や滑液包にオーバーユースの負荷が積み重なりやすくなります。

「単なる安静」だけでは不十分?競技復帰に向けた運動療法の役割

痛みが強い時期に負荷を減らす判断そのものは妥当です。ただ、固定と安静だけを長く続けると、肩関節の可動域は狭まり、腱板や肩甲骨まわりの筋力も落ちていきます。関節が固まったまま競技へ戻れば、フォームに代償が生まれ、別の部位へ負担が移ることも考えられるでしょう。押さえておきたいのは「痛みを避ける安静」ではなく「痛みの出ない範囲で動かす」という負荷管理の発想です。診療ガイドラインを扱う公的な情報基盤でも、運動器疾患に対する運動療法は保存的アプローチの柱のひとつとして位置づけられています1

保存療法と手術療法におけるリハビリ期間・経過の違い

部分損傷で腱の連続性が保たれているケースでは、注射やリハビリを軸とした保存療法が検討されます。競技レベルにもよりますが、段階を追っておおむね3〜6ヶ月かけて競技動作へ近づけていく流れが一般的とされます。対して、腱が広範囲に断裂し関節鏡下手術が選ばれた場合は、修復した腱を守るための装具期間が設けられ、他動運動から自動運動へと慎重に進みます。競技復帰までは半年から1年程度を見込むことが多く、時間軸はかなり違ってきます。どちらを選ぶかは、損傷の形態・年齢・競技要求・仕事の状況を踏まえた相談が前提になります。

肩関節の可動域確保とインナーマッスル強化の重要性

痛みをかばっていると、三角筋などアウターマッスル主導で腕を挙げる癖がつきがちです。この状態では骨頭が上方へずれ、腱板や滑液包が挟み込まれる負荷が増えかねません。まず胸郭と肩甲骨の柔軟性を取り戻し、そのうえで棘上筋・棘下筋が適切なタイミングで働く協調性を育てる——この順序がリハビリテーションの基本設計として考えられています2

腱板損傷からスポーツ復帰までの3段階リハビリステップと期間目安

腱板損傷からスポーツ復帰までの3段階リハビリステップと期間目安

リハビリは一本道ではなく、肩の状態に応じて段階を移していきます。以下の期間はあくまで目安で、損傷の程度や年齢、競技レベルによって前後します。

【急性期】炎症沈静と可動域制限を防ぐアプローチ(発症〜約1ヶ月)

夜間痛や、腕を挙げる途中で走る痛みが目立つ時期です。この段階の狙いは、炎症を落ち着かせながら関節が固まるのを防ぐこと。腕の重さを支えずに済むよう机に前腕を置いて行う振り子運動や、理学療法士が介助する他動的な可動域訓練が中心になります。まったく動かさない期間を長く取りすぎると、次の回復期で余計な時間がかかることがあります。あわせて、就寝時の姿勢やタオルを使った肩の支え方など、痛みを増やしにくい生活動作の指導も行われます。デスクワークが長い方は、肩がすくんだ姿勢が続くこと自体が肩甲骨の動きを妨げる要因になるため、勤務中の姿勢調整も並行して見直したいところです。

【回復期】腱の修復促進とインナーマッスルの段階的強化(約1ヶ月〜3ヶ月)

安静時の痛みが和らいできたら、負荷をかける段階へ移ります。まずは肘を体側につけたままチューブで外旋・内旋を行うなど、腱板に過度な張力をかけない低負荷・高回数の運動から。並行して、肩甲骨を寄せる・下げるといった土台側の運動を組み合わせていきます。「筋トレをしていいのか」と迷う方が多い場面ですが、控えたいのは重量を扱う挙上系の種目であり、角度と負荷を管理したインナーマッスルの運動はむしろこの時期の中心課題です。通院は週1〜2回で理学療法士が動作を確認し、残りを自宅課題として継続する形が現実的でしょう。可動域は左右差を見ながら、少しずつ挙上角度を広げます。

【機能改善期・競技復帰期】全身連動性とフォーム再構築(約3ヶ月〜6ヶ月)

肩単独の機能が整ってきたら、視点を全身の連動へ移します。サーブも投球も、力は下肢から体幹を経て腕へ伝わる連鎖で生まれるもの。股関節の回旋可動性や体幹の安定性が足りないと、その分を肩が代償することになります。この段階では、片脚立位での回旋運動、メディシンボールを使った投げ動作、素振りからの段階的なラケットワークへと進みます。競技特異的な負荷に耐えられるかを確かめながら、練習量を少しずつ戻していくプロセスが欠かせません2。当院では医師の評価に基づく運動療法プログラムを組み立て、理学療法士やトレーナーが伴走する体制を取り、競技動作までを見据えた設計を重視しています。

リハビリ効果を高める先進的アプローチ(体外衝撃波と再生医療)

痛みが強いままではリハビリの負荷を上げにくく、時間だけが過ぎてしまうこともあります。そこで、組織の状態を評価しながら痛みの背景にアプローチする手段を併用する、という考え方が出てきます。

エコー観察による詳細な状態把握と体外衝撃波治療の活用

超音波(エコー)は、腱板の厚みや損傷部位、滑液包の腫れ、腱内の石灰沈着などを、肩を動かしながらその場で観察できる検査です。レントゲンには映らない軟部組織の情報が得られるため、リハビリで避けたい角度を検討する材料にもなります。当院ではエコーによる評価を診察のなかで行い、状態に応じて体外衝撃波治療を組み合わせています。体外衝撃波は注射を用いずに圧力波を患部へ伝える物理療法で、慢性化した腱付着部の症状に対する選択肢のひとつとして扱われています1。ただし、すべての方に適応となるわけではなく、症状や画像所見をふまえた個別の判断が必要です。

厚労省認定第3種再生医療等提供機関における先進治療の選択肢

手術は避けたい、けれど現状のまま競技を続けるのも難しい。そうした場面で検討されるのが再生医療等の技術です。当クリニックは厚生労働省に届出を行った第3種再生医療等提供機関で、ご自身の血液から抽出した成分を用いるPRP治療や、歯髄幹細胞培養上清液を用いた治療などを、状態に合わせてご提案しています。いずれも自由診療にあたり、適応や想定される経過には個人差があります。結果をお約束するものではありませんので、損傷の形態や競技スケジュールを踏まえ、想定されるリスクや副反応、費用も含めて説明を受けたうえでご判断いただくことが大切です。

医療アプローチと専門リハビリテーションの相乗作用

これらの治療は、それ単体で競技動作を取り戻すものではありません。痛みの程度が和らぎ、組織の環境が整った時期に、身体の使い方を再教育するリハビリを重ねてこそ意味を持つと考えられます。治療で「動かせる状態」に近づけ、リハビリで「使える肩」に育てる。この組み合わせが保存療法の骨格です。当院は再生医療・リハビリ・トレーニングを一か所で完結できる体制を特徴とし、医師・理学療法士・トレーナーが情報を共有しながら、同じ負荷で痛めにくい身体づくりまで一貫して支援しています2

スポーツ復帰を見極める明確な判断基準と再発予防コンディショニング

「痛くなくなったから戻る」という自己判断だけでは、同じ負荷でまた症状を繰り返すことがあります。復帰の可否は、いくつかの観点を組み合わせて確かめていきます。

可動域・筋力・痛みの観点からチェックする競技復帰基準

目安として挙げられるのは、次のような項目です。

  • 可動域:挙上・外旋・結帯動作などで、健側と比べた明らかな左右差が残っていないか
  • 筋力:外旋・内旋の徒手筋力検査や機器測定で、健側に近い水準まで戻っているか
  • 痛み:夜間痛が落ち着き、日常動作や素振りレベルの動きで痛みが誘発されないか
  • 持久性:反復動作を続けたとき、後半でフォームが崩れたり痛みが出たりしないか
  • 動作の質:肩甲骨の動きが保たれ、すくみ上がるような代償が出ていないか

これらを段階的に確認したうえで、練習強度を25%、50%、75%と刻んで戻していく進め方が現実的です。復帰は日付で決めるものではなく、機能の到達度をもとに検討する。この考え方を関係者間で共有しておくと、焦りに引きずられにくくなります2

オーバーユースを防ぐ肩甲骨・股関節の連動とセルフケア

再発予防では、肩そのものより「肩に負担を集めない身体づくり」が鍵になります。胸椎の回旋が乏しい、股関節が硬い、体幹の支持が弱い——こうした条件が重なるほど、腕の振りで帳尻を合わせることになり、腱へのオーバーユースが進みやすくなります。

練習前は胸郭を開くストレッチと肩甲骨まわりの軽い運動でウォーミングアップし、練習後は使った筋の柔軟性を戻す。加えて、週あたりの練習量を急に増やさない、痛みが出た日は翌日の負荷を落とすといった総量の管理も欠かせません。栄養面では、たんぱく質やアミノ酸を含む食事を練習後に確保することがコンディショニングの一助になると考えられています1。40代以降は組織の回復に時間を要しやすい傾向があるため、休養日の確保も計画に組み込んでおきたいところです。

よくある質問

Q1. 腱板損傷のリハビリは週に何回くらい通うものですか?

A. 状態や時期によりますが、急性期から回復期にかけては週1〜2回の通院で理学療法士が可動域や動作を確認し、自宅での運動課題を並行して行う形が一般的です。機能改善期に入ると、確認の頻度を調整しながら間隔を空けていく場合もあります。頻度そのものより、自宅課題を続けられているかが進み方に関わってきます。

Q2. 腱板損傷はリハビリでは変わらないと聞いたのですが?

A. 損傷の形態によって取り得る選択肢が異なります。腱が広範囲に断裂している場合、保存療法だけで腱の連続性が戻ることは想定しにくく、手術が検討されます。一方、部分損傷や腱の変性が主体のケースでは、可動域と筋機能を整えることで動作時の負担が軽くなり、競技動作に取り組みやすくなることもあります。まずは画像評価で状態を把握することをおすすめします。

Q3. リハビリ中に筋トレをしても問題ありませんか?

A. 種類と時期の見極めが重要です。頭上へ重量を挙げる種目や、痛みが出る角度での高負荷トレーニングは時期を選ぶ必要があります。逆に、肘を体側につけた状態でのチューブによる外旋運動など、腱板に配慮した低負荷の運動は回復期の中心となる課題です。自己判断で進めず、担当の理学療法士と内容を確認しながら行ってください。

Q4. スポーツをしている人は腱板損傷になりやすいのでしょうか?

A. 野球、テニス、バレーボール、水泳など、腕を頭上へ繰り返し振る競技では肩に反復負荷がかかりやすく、腱や滑液包に負担が蓄積する傾向があります。加えて中年以降は腱の変性も加わるため、若い頃と同じ練習量が負担になることもあります。フォームや練習量の見直しが、予防の観点で重要になります。

Q5. 再生医療等の治療は保険が使えますか?

A. 現行制度では、PRP治療や幹細胞培養上清液を用いた治療は自由診療に該当します。費用や適応、想定される経過には個人差があるため、診察時に状態を評価したうえで、他の選択肢と比較しながらご説明しています。

参考文献

1. 公益財団法人 日本医療機能評価機構「Minds ガイドラインライブラリ」 https://minds.jcqhc.or.jp/

2. 公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 https://www.jarm.or.jp/

阿多由梨加

医師


MTXスポーツ・関節クリニック

院長

阿多由梨加

▶ 監修者プロフィール

経歴
2010年 横浜市立大学附属病院
2011年 横浜南共済病院
2013年 神奈川県立こども医療センター
2015年 横浜掖済会病院
2016年 Dr.KAKUKOスポーツクリニック
2023年 MTXスポーツ・関節クリニック 院長
資格・所属学会
日本整形外科学会
日本整形外科スポーツ医学会
日本臨床スポーツ医学会
日本小児整形外科学会
日本整形外科学会認定専門医(第122753号)
医学博士
日本スポーツ協会認定スポーツドクター
2017年〜自転車競技日本代表チームドクター