2023.09.22
サッカーのキック動作に潜む危険:股関節痛を理解しよう

サッカーは、足でボールを操る特異なスポーツであり、その多様な動作と接触が魅力です。 しかし、このスポーツには怪我もつきものです。このコラムでは、サッカーにおけるキック動作から発生するグロインペイン(鼠径部痛症候群)と言われるような股関節痛の障害に焦点を当て、その診断、治療、そしてリハビリについて解説していきます。
はじめに
サッカーは足でボールを扱うことを最大の特徴とするスポーツです。スプリント、ステップ、ジャンプ、ターンに加え、スロー、スライディング、キックなど、多種多様な動作が要求され、さらにコンタクト(人との衝突)も含まれます。
また傷害発生においては7割が足や膝などの下肢に障害が発生し、傷害の種類としては捻挫や打撲などの外傷が多いのが特徴となっています。
一方で、鼠径部痛症候群(以下、グロインペイン)といわれるような股関節痛の障害が全体の1割程度を占めています。
グロインペインとはランニングやキック動作の際、股関節周囲の筋肉や靭帯、軟骨などの痛みを生じる障害です。
痛みを有すると治りにくい障害であり原因は非常に複雑で多様です。
急性症状もあれば使いすぎによる慢性症状もあります。
急性症状においても慢性化や重症化する場合が少なくないため、まずはその鑑別が非常に重要となります。
今回はサッカーでのキック動作で生じるグロインペインにおける診断、治療およびリハビリの内容について解説しています。
サッカーにおけるキック動作
サッカーのキック動作は、ボールに対するインパクトをより強く行うために、股関節–膝関節–足関節が協調的に動いてスウィング動作が、体幹部のエネルギーを足へと伝達するメカニズムが働きます。
このメカニズムは、上半身も含めた多くの関節の運動により、足先への加速度を増大させることができます。
このようなシステムを効率的に機能させるためには、肩甲帯–脊柱–骨盤の協調した回旋運動が重要となります。
この協調した回旋運動とは肩甲帯と骨盤が互いに逆方向へ連動して効果的に回旋する運動であり、この回旋運動が何らかの問題により損なわれると、キック動作が股関節の屈曲や内転動作単独で行われるようになります。
その結果、股関節屈筋群や内転筋群の付着部に、過剰なストレスが発生し、そのストレスの蓄積によって疼痛が発生しやすくなります。
これらのことから、キック動作を評価する際、単に下半身の関節を評価だけでなく全身的な連動性・協調性を見ながら、その原因を探ることが必要となります。
キック動作(クロスモーション)の評価
キック動作の評価では、上記でも説明したように脚の振りだけではなく腕の振りなども合わせた全身的な動きを評価する必要があります。
そのためには“クロスモーション”と呼ばれる蹴り足と対側の上肢の動きや体幹部や軸足の安定性を評価することが重要となります。


機能評価について
①可動域のチェック
肩甲帯、脊柱、股関節がそれぞれ十分な可動域を有しているか評価します。
その他、胸郭、骨盤、膝関節、足関節などについても、可動域制限が存在するとキック動作の際のフォーム不良、後方重心の助長などの悪影響が生じるため、必要に応じて詳細に評価することが必要になります。
鼠径部痛症候群を有する選手は股関節内旋制限が強い場合が多く、梨状筋や外閉鎖筋の短縮が認められ、時には肉離れが生じていることもあるため、注意が必要です。

②股関節周囲筋群の筋力 のチェック
股関節の屈筋群、伸筋群、および股関節内転筋群・外転筋群について、筋力評価を行うとともに、その際の疼痛の有無のチェックも行います。

③体幹・軸足の安定性 のチェック
体幹の静的・動的安定性をチェックします。うつ伏せ、仰向け、横向き、立位などの基本的な肢位だけでなく、四つ這いのような応用肢位やクロスモーションなど、キック動作を模した肢位で評価を行うとともに、徒手抵抗やチューブ抵抗、不安定板上などの条件で十分な安定性を保持可能かについても評価を行います。

④鼠径部痛症候群(グロインペイン)の診断
まずは診察にて医師が症状を確認します。
触診、ストレッチ痛(筋肉を伸ばしたときの痛み)、抵抗時痛(力を入れて抵抗をかけた時の痛み)などでどの組織がどのようなストレスで痛みを有しているのかを判断します。
また超音波エコー画像を用いてどの部位にどの程度の問題があるのかを診断します。
他院にてMRIを撮っている場合は持参していただければより詳細な病態を把握することが可能となります。
治療について
基本的には手術を必要とすることは稀であり、痛みに対する治療やリハビリでの機能訓練を実施することで改善するケースがほとんどです。
痛みを強く感じているときは無理な負担をかけないように練習を休むことも必要になります。
当院では炎症が生じている組織や動きの悪くなっている筋肉などに注射でのリリースや再生医療を用いることで症状の改善を図ることが出来ます。
また集束型体外衝撃波という機械を使って痛みの改善や組織の修復を促すことも出来ます。
リハビリにおいては上記の機能評価に基づいて柔軟性の低下や制限のある関節の可動域拡大のためのストレッチやマッサージを行い可動域の拡大を図ります。
特に、もも裏の筋肉やおしりにつく股関節を捻るための筋肉に硬さを認めることが多く、また背骨や肩甲骨周囲の動きの悪さも股関節の負担を増大させる原因となるためしっかりと柔軟性を獲得することが大切になります。

また股関節周囲の筋力にアンバランスがないかを確認し、弱っている筋肉を強化していきます。
筋力においてはもも裏の筋力やおしりにつく殿筋群の力をしっかりと使えることが重要になります。

さらにキック動作を安定して行うために体幹部の安定性や軸足の安定性を向上することが重要であり、体幹の筋肉をしっかりと活性化させた状態で腕や足を振ることが出来ると安定したクロスモーションを獲得することが出来、さらに腰に掛かる負担を軽減することにも繋がります。
最終的にキック動作における全身の協調性をスムーズに行えるようにトレーニングをしていきます。

最後に
サッカーにおける股関節痛は原因が様々であり、症状が長引くことも多く、一度痛みが落ち着いても再び再発してしまうことがあります。
重要なのは痛みを取るだけではなくなぜ股関節に負担がかかっているのか?その原因を突き止めることにあります。
整形外科医による診察や治療、理学療法士による身体機能の評価やリハビリでのトレーニングを受けることで股関節にかかる負担を取り除くことが大切です。
サッカーをしていて股関節の痛みや違和感が生じた場合は決して我慢せず、お気軽に当院までご相談ください。

MTXスポーツ・関節クリニック 理学療法士 大内元輝
理学療法士の免許を持ち、整形外科クリニックや病院でのリハビリテーション経験が豊富です。パーソナルトレーニングジムでの勤務経験もあり、競技者のケアやコンディショニングに専念しました。 一人一人の目標達成に向けてサポートします。質問や悩み事がありましたらどうぞ。共に成果を出しましょう!
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