2023.09.05
投球時の肩関節後方の痛み:インターナルインピンジメントとは?

以前の投球障害肩(野球肩)に関するコラムでは投球時の肩の痛みに共通して述べられる事柄について解説させていただきました。
野球における投球動作では肩関節に大きな負荷がかかります。ボールを投げていて肩に痛みが出てしまう選手も少なからずいると思います。
好きで始めた野球が痛みのせいで満足にプレーできない状態になると、心から楽しめなくなってしまうと思います。
今回は、投球障害肩の中でもインターナルインピンジメントと呼ばれる障害の原因・症状、治療やリハビリのポイントについて解説していきます。
インターナルインピンジメントとは
皆様も「インピンジメント症候群」という言葉を一度は聞いたことがあるかもしれません。
インピンジメントとは“衝突”のことを指します。
インピンジメント症候群とは、肩が動くときに骨や筋肉・腱などに衝突を繰り返すことによる病変の総称です。
そしてそのインピンジメント症候群は関節の中で生じる「関節内病変」と関節の外で生じる「関節外病変」に分けられます。
そのうちインターナルインピンジメントとは関節の中のインピンジメントになります。
投球障害肩のなかでもインターナルインピンジメントは頻度が高く、問題視されています。
後上方インピンジメントとは
肩関節外転および外旋位(腕を横に開いた状態で手が後ろに捻られた状態)において、上腕骨の大結節と呼ばれる部位の
腱板(肩関節におけるインナーマッスル)付着部と肩甲骨関節窩後上縁が接触もしくは衝突し、腱板などが挟み込まれる現象のことを指します。
症状
投球動作におけるコッキング後期に肩関節が外転外旋する(手が後ろに取り残される)際、最終域で肩の後ろに痛みが生じます。
後上方インピンジメントの原因
・前方関節包の弛緩:肩を覆っている関節の袋(関節包)の前方が緩んでしまう
・肩関節の後下方組織(筋肉・関節包)の硬さ:関節包の後方や腱板の後方が硬くなってしまう
・回旋筋腱板(肩関節のインナーマッスル)の筋力不均衡:4つある肩のインナーマッスルのバランスが悪い
・肩甲骨の位置が悪い:背中が丸まっている影響等で肩甲骨が内旋している(内巻きになっている)
・不良な投球フォーム:上半身の開きが早い、テイクバックで手を背中側に引きすぎる、下半身がうまく使えない…
などが原因として報告されております。
後上方インピンジメントの診断
まず医師が問診にて症状を確認します。
次に、整形外科的テストや超音波エコー画像などを用いて行います。
肩のどの部位に問題があるのか、動きの悪い箇所はどこであるのかを検査していきます。
後上方インピンジメント症状がある場合はHyper External Rotation Test(HERT)と呼ばれるテストを行います。
肩の後方に痛みを訴える選手が多いのが特徴的です。
他院にてレントゲンやMRIを撮っている場合は持参していただければ、よりスムーズに病態を把握することが可能となります。
後上方インピンジメントの治療
ハイドロリリース
肩関節は関節の構造上、不安定で自由度が高い関節になります。
投球動作の反復によって肩関節後下方の組織に負荷がかかり硬くなってしまうと、正しい位置での運動が行えなくなってしまいます。
エコーを見ながら癒着を起こしている筋肉と筋肉の間や、圧迫を受けている神経の周りに薬液を注射します。
ハイドロリリースに使用する針は採血で使用する物よりも細いため、強い痛みが生じることは少ないです。
【費用】
(生理食塩水での投与の場合) 税込み価格1回6,600円
※当院は自由診療です。
【その他、このようなお悩みの方が受けられております】
・ストレッチやマッサージでは改善に乏しい、しつこい肩こりや腰痛の方
・受傷後に可動域や柔軟性に違和感がある方
【注意事項(リスク・副作用)】
施行してすぐは疼痛がでる可能性があります。
リスクは低いですが、神経血管のそばを針が通った際に傷つける可能性があります。
リハビリテーション
肩関節の柔軟性獲得
投球動作の特性上、野球選手の場合、肩関節の後方に存在する筋群が硬くなっている場合が多いです。
部位に硬さが認められた場合は徒手治療やストレッチによって柔軟性を獲得していきます。
肩関節の筋力強化
前述した通り、腱板と呼ばれる肩のインナーマッスルの筋力のバランスが悪いと関節運動にエラーが生じます。
常に肩関節が適切な位置で動けるように筋肉を鍛えていきます。
患部外機能の改善
肩甲骨が内側を向いていることにより、テイクバックで腕を引く際に肩関節が過剰に水平外転した状態になってしまいます。
改善するためは肩甲骨のエクササイズや、肩甲骨の動きに影響を与える胸椎・胸郭の可動性に対する運動も並行して実施することが重要です。
投球動作チェック・指導
投球動作は全身運動になるため、各関節の機能が整うことはもちろんですが、それらがしっかりと連動して働くということが重要になります。
動画でフォームを撮影し、どのフェーズで動作のエラーが生じているのかを理学療法士やトレーナーが一緒になって考えていきます。
セルフエクササイズ指導
選手の身体を評価した上で、その選手に必要な運動を指導させていただきます。
ノースロー期間にしっかりと全身の機能を改善させて、投球動作に耐えられる身体を作ることが非常に重要になります。
TikTokにて、注射からリハビリの流れを簡単に動画で載せています。
ぜひこちらもご参照ください🔽
@mtx_s_a_clinic 【最大外旋で肩の後ろが痛い草野球プレーヤー⚾️】 ハイドロリリースとリハビリを実施しました! 診察時は医師による丁寧な説明がありますのでなぜ痛みが出ているのか、ご納得いただけるかと思います。 治療後は痛みが減少したとのことで我々も嬉しい限りです! . . . #整形外科 #クリニック #理学療法士 #筋トレ #ストレッチ #四ツ谷 #市ヶ谷 #麹町 #運動療法 #スポーツ #リハビリ #リハビリテーション #トレーニング #再生医療 #ハイドロリリース #腰痛 #四十肩 #五十肩 #テニス肘 #ゴルフ肘 #足底筋膜炎 #肩こり #肉離れ #アキレス腱炎 #野球肘
♬ Rickroll – Chris Alan Lee
最後に
投球障害肩はしばらくの間投球を休止して肩を休めると痛みが落ち着くこともあります。
しかし、再び投げ始めると痛みが再発することがあります。
重要なのは、“どこが損傷しているのか、関節の中で何が起きているのか”
まずはその病態を正確に把握することです。
また、”なぜ肩を痛めてしまったのか?”その原因を突き止めることも非常に重要です。
選手によってその原因は様々ですので、まずは医療機関を受診し、専門家に身体を診てもらうことが大切です。
整形外科医による診察や治療、理学療法士による身体機能のチェックやリハビリを受けて、痛みの出ない身体やフォームを作っていきましょう。
野球やバレーボールなどのオーバーヘッドスポーツにおいて、今回のような症状がある方は決して我慢せず、お気軽にご連絡ください。
前回のコラムはコチラ
野球で肩が痛い!投球障害肩(野球肩)の原因と対策について

記事監修
MTXスポーツ・関節クリニック 理学療法士 新海貴史
理学療法士として整形外科病院やクリニックで臨床に従事。
子どもから高齢者、アスリートまで幅広い患者様を対応。
自身も小学校から野球を始めて現在もプレーヤーとして続けており、スポーツ・運動障害で悩む方に寄り添いながら機能改善をサポートする。
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