2023.04.11
野球で肩が痛い!投球障害肩(野球肩)の原因と対策について

野球をプレーするなかで、ボールを投げる動作や投げたあとの肩の痛み、違和感などで悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
野球肩はボールを多く投げるピッチャーだけの症状と思われがちですが、他のポジションやボールを投げるといった動作があるスポーツでも発症します。
肩の痛みを感じた際に、適切な対処ができるよう、野球肩の症状の特徴を理解しておくことが大切です。
今回は、野球肩の原因・症状、治療やリハビリのポイントについて解説していきます。
投球障害肩(野球肩)とは?
投球動作は、下半身、体幹、上半身というように身体の各部位の運動を通じて、その力を指先からボールへ伝えていく全身動作です。
そのため、身体の各部位の機能(関節の柔軟性や筋力など)が低下すると運動のつながりが崩れて肩関節にかかる負担が増えてしまいます。
機能が低下することで不良なフォームになったり、投げ過ぎにより肩に多くのストレスがかかったりすることで肩の痛みが生じ、投球が困難になることを投球障害肩(野球肩)と言います。
投球障害肩の症状の例
・腕を上げるときに肩が痛い
・投球時、または投球後に肩が痛い
・肩関節が動く範囲(関節可動域)の制限がある
・肩に力が入りにくく、全力投球ができない
・球速が下がった、遠投で遠くにボールを投げられなくなった
投球障害肩になっても日常生活には困らないことが多く、練習や試合を一時的に休むことで痛みが消失する場合があります。
しかし、投球を再開するとまた痛みが出るということもあるため、適切な対処を行い競技に復帰することを推奨しています。
投球障害肩(野球肩)の原因
では、なぜ投球障害肩になってしまうのでしょうか?
投球障害肩は“投球”という肩に負担のかかる動作を繰り返し行うことにより関節や筋肉に小さな損傷が重なることで生じます。
投球動作中はとても速いスピードで腕が回旋するため、その動作自体が肩に大きな負担をかけます。
柔軟性低下や筋力低下はもちろんのこと、
・投げ過ぎ
・不良な投球フォーム
・適切でないコンディショニング
など、どれか一つでも当てはまっていれば投球障害肩になるリスクが増えてしまいます。
また投球動作は全身を使った動きになるため、肩関節の周りだけではなく下半身や体幹などの状態や動きのつながり(連動性)が悪いことで、投球障害肩を招くことにつながってしまいます。
投球障害肩(野球肩)の診断
まず医師が問診にて症状を確認します。
次に、整形外科的テストや超音波エコー画像などを用いて肩のどの部位に問題があるのか、どの程度傷ついているのかを診断します。
他院にてレントゲンやMRIを撮っている場合は持参していただければ、よりスムーズに病態を把握することが可能となります。
投球障害肩(野球肩)の治療
投球障害肩の治療は保存療法(リハビリ)が基本となります。
症状によって差はありますが、数週間〜数ヶ月の投球休止(ノースロー)期間を設けます。
ノースロー期間中は、以下の内容を徹底して行います。
・リハビリで肩周辺の機能改善(柔軟性向上や筋力強化)
・投球フォームのチェック
・修正、全身のコンディショニング
当院では硬くなっている組織に対しては集束型体外衝撃波という機械を使った治療や、癒着した組織の滑りを改善するハイドロリリースという注射も打つことが可能です。
集束型体外衝撃波に関しては下記のコラムをご参照ください。
https://mtx-clinic.jp/column/focused_shockwave/
リハビリでは何をするの?
理学療法士はリハビリの専門家です。
選手の身体を評価し、肩に負担がかかってしまった原因や機能が低下している部分を探していきます。
肩はもちろんですが、体幹や下半身などの全身を評価します。
以下、リハビリの例を説明させていただきます。
① 肩関節の柔軟性評価・可動域拡大
野球選手における肩関節の柔軟性の特徴として、後方に存在する筋肉が硬くなることが挙げられます。
これは腕を振る際(フォロースルー)に肩の後方の筋肉が、振り出される腕を減速させるブレーキの役割を果たしているからです。
まずは後方の硬さを評価し、硬くなっている筋肉の柔軟性を取り戻すことが重要です。
② 肩の筋力評価・強化
肩関節の深層に位置する回旋筋腱板(インナーマッスル)は投球動作中に高速で回転する肩関節を安定して動かすために、大切な筋肉です。
繰り返す投球動作は筋肉を酷使し微細な損傷を生じ、うまく力が発揮できない状態にさせます。
③ 患部外の機能評価・アプローチ
前述したように、投球動作は全身を使った動作になるため、肩が痛い場合であっても下半身や体幹の評価は必ず行います。
下半身や体幹の硬さ・弱さを改善させることにより、全身を使った動作が可能となります。
その結果、肩関節にかかる負担を減らすことができます。
④ 投球動作指導
投球障害を抱えている選手がフォームに問題がある場合も少なくはありません。
機能が低下している箇所に対してしっかりとアプローチ後、投球フォームを動画で撮影し、どのフェーズに動作のエラーが生じているのかをチェックしながら動作の改善を図ります。
⑤ セルフエクササイズ指導
セルフエクササイズを知ることにより自分自身で身体を管理できるようになることが再発予防の観点からも重要だと考えます。
選手の身体を評価した上で、その選手に必要な運動を指導させていただきます。
このようにノースロー期間にしっかりと全身の機能を改善させて、投球動作に耐えられるからだを作ることが非常に重要になります。
最後に
投球障害肩はしばらくの間投球を休止して肩を休めても、再び投げ始めると痛みが再発することがあります。
重要なのは、”なぜ肩を痛めてしまったのか?”
その原因を突き止めることにあります。
選手によってその原因は様々です。
整形外科医による診察や治療、理学療法士による身体機能のチェックやリハビリを受けて、痛みの出ない身体やフォームを作ることが大切です。
野球をしていて肩に痛みや違和感が出た場合は決して我慢せず、お気軽に当院までご相談ください。

記事監修
MTXスポーツ・関節クリニック 理学療法士 新海貴史
理学療法士として整形外科病院やクリニックで臨床に従事。
子どもから高齢者、アスリートまで幅広い患者様を対応。
自身も小学校から野球を始めて現在もプレーヤーとして続けており、スポーツ・運動障害で悩む方に寄り添いながら機能改善をサポートする。
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