2023.03.07
凍結肩(五十肩)とサイレントマニピュレーション治療について

凍結肩という言葉を聞いたことある方はあまり多くないのではないでしょうか。
五十肩・肩関節周囲炎と呼ばれる肩関節を包む袋(関節包)の炎症が長引くことで、拘縮し肩が上がらない状態は『凍結肩』と呼ばれます。
解剖と受傷メカニズム

50代以降に多く見られ、1度の外傷で起きることもあれば慢性炎症で徐々にダメージが蓄積していき動かなくなっていくこともあり、その病態は多彩です。
肩関節は関節包という柔軟性がある袋により広い可動域をとることができています。
肩関節周囲に炎症が起きると、癒着し関節包の柔軟性が低下することで可動域の低下と疼痛が引き起こされるのです。
凍結肩(五十肩)の症状

症状は痛みと可動域制限ですが、個々人によって症状の程度や病期の持続時間が異なります。
病期はおおよそに分けると①急性期、②拘縮期、③回復期という3つに分けられます。
急性期の症状
肩関節の動きが非常に悪くなり動かすと強い疼痛が出現します。
特に、外旋(腕を外に回す動き)が、できなくなることが多いです。
夜に痛みが強くなることも特徴的です。急性期は通常1ヶ月から1ヶ月半ほど続きます。
拘縮期の症状
肩の痛みが少し和らいできます。
しかし肩が動かしにくいままです。
急性期後4ヶ月から6ヶ月を拘縮期と呼び日常生活動作に不自由を感じます。
回復期の症状
回復期では肩の動きが少しずつ改善してきます。
元通りかそれに近くまで回復するには6ヶ月から2年位かかると言われています。
凍結肩の診断方法
肩が動かせなくなる疾患は腱板損傷等他にもあり、それらを画像診断や肩周囲の圧痛部位や肩の動きから評価し除外する必要があります。
MRIが有効であることもありますので、撮影をお勧めするケースもあります。
当院での凍結肩に対する治療
当院での治療は主に2種類に分けられます。
1.集束型体外衝撃波と幹細胞上清液による注射
疼痛と炎症を軽減しリハビリテーションを行います。
最もマイルドな方法で侵襲が少ないですが時間がかかります。
完治には3から6ヶ月程度、場合によっては1年以上かかるケースもあります。
2.サイレントマニピュレーション(肩関節非観血的受動術)
疼痛部分の神経付近に麻酔薬を注射(ブロック注射)することで、痛みを除去した状態で硬くなった肩関節を動かして動きの幅を取り戻すことできます。
完治には1−3ヶ月程度かかります。
サイレントマニピュレーションとは
五十肩を放置し肩関節が硬くなってしまった凍結肩の治療方法は痛みを取って動かすことしかないのですが、長期間で形成された関節の硬さはすぐに改善できるものではないのです。
そんな凍結肩に対して考案されたのがサイレントマニピュレーションで、超音波ガイド下に肩周辺の神経に麻酔をかけ、硬くなっている関節包を徒手的にリリースすることにより、肩の動きを回復させます。
サイレントマニピュレーションの手順
1.ベッドに横になり、頸部より通常の採血よりも細い針でブロック注射を行います。

2.部屋を移動し、20~30分ほど横になり注射の効果が出るのを待ちます。
鎮痛とともに腕が動かなくなりますが、正常な反応です。
3.鎮痛効果が出ているのを確認した上で医師が肩関節をストレッチさせ、
縮んでしまった関節包をストレッチ、破断させます。(多少の疼痛がある方もいます。)

4.力が入らなくなっているため、三角巾で腕をつり、帰宅となります。
5.1週間以内(可能であれば3日以内)にリハビリの予約を取っていただき、
再び硬くならないように積極的に動かしていきます。
治療上の注意について
サイレントマニピュレーションを行えない方
・80歳以上の女性
・骨粗鬆症
・糖尿病(再発リスク高)
・局所麻酔薬アレルギー
・リハビリに通院できない
合併症について
・脱臼・骨折
骨の弱っている方(骨粗鬆症)では手技により上腕骨の骨折や肩関節の脱臼が起きるおそれがあります。
・感染症
非常に稀ですがブロック注射により菌が身体の中に入り、感染症を起こす可能性があります。
・神経痛・麻痺
ブロック注射は神経のそばを通るため、ビリっとした痛みや痺れを感じる可能性があります。
針が細いため麻痺まで起こることは珍しいですが、ゼロにすることはできません。
・再発
糖尿病の方、両肩の凍結肩の方は片方の凍結肩の方よりも再発のリスクが高いです。
早期から積極的なリハビリを行う必要があります。
最後に
いかがでしたか。サイレントマニピュレーションは非常に有効な手法ではありますが、位置づけとしてあくまでリハビリを順調に進めるための手段です。その後のリハビリが最も大切です。
当院では、一人一人の病状に寄り添い、ひとつひとつの問題を丁寧に解決していくようリハビリにも注力しております。
お気軽にご相談ください。

記事監修
MTXスポーツ・関節クリニック 院長 富岡 義仁
インディアナ州立大学アスレティックトレーニング学部卒、富山大学医学部卒。
東京警察病院整形外科で臨床に従事しながら、2020年オリンピック選手村ドクターを日本最若手として勤務。
2022年MTX関節クリニック開院を開院し、院長就任。
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